中国と銅の不透明な先行き

2015年11月5日 || OPENMARKETS
銅に関して言えば、一国で世界全体の需要の45%を占めることを考えると、中国ほど重要な国は存在しない。銅価格が急落して6年半ぶりの安値を付けたが、景気減速が深刻化している世界第二位の大国をその要因としてはっきりと挙げられる。最近の人民元(RMB)の予想外の切り下げは、ハードコモディティ・セクターにさらなる一撃を加え、中国の購買力の低下を巡る懸念が高まる中、中国経済はいまだ安定している。
だが、需給に左右される工業用金属については、需要と成長の根本的なけん引役である中国のセンチメントに対して浮上した、圧倒的な悲観論の先を見越す必要がある。銅の現物需要の見通しは、依然として底堅く、中国政府は潜在的な刺激策を手中に収めている兆候が見られる。
例を挙げると、巨大企業の国家電網公司は、最先端の配電インフラの導入を早めようとしており、それだけで中国の銅の消費全体の半分を占めるため、銅の見通しに対する懸念はやや和らいでいる。国家能源局は、電力インフラに3,000億人民元を投資する目標を設定しており、この額は昨年の投資総額のほぼ2倍に相当し、2020年までの2兆人民元規模の投資計画の一環である。
とはいえ、銅の工業用および不動産関連の需要、ならびに供給を巡る不透明感は、いまだかなり残っている。銅と足元の取引のパフォーマンスについて細かく検証していくために、CMEグループの金属商品担当シニアディレクターであるYoungjin Changとアジア金属商品担当ディレクターであるYvonne Zhangに詳細を伺った。
中国の純然たる需要規模を勘案すると、銅、そしてアルミ、ニッケル、亜鉛などの他の工業用金属にとっての重要性が浮き彫りになります。中国のファンダメンタルズの悪化、工業関連データ、為替介入は、世界の先物市場にどのような影響を与えているとお考えですか?
Yvonne Zhang(以下、YZ):中国の景気減速の継続は、世界唯一の最大消費国である他の工業用金属と同様に、銅価格にとって重要な要因であることは疑う余地はありません。工業生産とインフラに銅が広く用いられていることから、銅価格は、景気を現わす重要な指標であると一般的に受け止められており、そのため銅価格は近頃の景気低迷の影響をかなり受けています。
こうした状況にもかかわらず、中国発のニュースは、すべてが暗いとは限りません。7月の輸入量は、3%増の35万トンに達し、2014年5月以来初めて前年比ベースで増加に転じました。銅価格の下落により、輸入総額自体は減少したものの、輸入量は底堅さをみせています。実際に、上海の保税倉庫の銅在庫は、ここ数ヶ月間で増加しています。銅については、需要は価格安に対してかなり弾力性があり、価格下落によって在庫積み増しが促進されています。
先物市場に関しては、8月11日にCMEグループの銅先物の取組高は過去最高水準に達しましたが、これは予想外の人民元切り下げと一致しています。つまり、市場参加者が短期取引と対照的なポジションを保有していたことから、この影響がかなり大きかったのです。また、市場における価格の不確実性を取り除くためのヘッジ―ツールとしての先物の利用の伸びとも一致している、と言えるでしょう。銅の1日の平均出来高は、年初来38%増えています。
中国以外で、銅の需要不足の要因となるものは他にありますか?
Youngjin Chang(以下、YC):中国があらゆる工業用金属において唯一の最大消費国であることから、現物市場とデリバティブ市場では、成長鈍化を示す「新常態(ニューノーマル)」に対する調整にやや時間がかかると思われます。目下、中国に匹敵する需要の新しい源泉が存在しないとはいえ、インドをはじめベトナムやアフリカなどの上り調子にあり、成長拡大の源泉になりそうな国はいくつかあります。潜在的な長期需要のもう一つの源泉は、中国から欧州、中東、アフリカまでをつなぐ中国の大掛かりな「一帯一路(ワンベルトワンロード)構想」のインフラ建設政策です。これにより、中国の商品市場における主要プレイヤーとしての地位の持続が確保されますが、現時点では同プロジェクトはまだ初期段階にあります。
供給サイドは銅の見通しにどのような影響を与えていますか?
YZ: ここ数週間、銅の供給は、一時的であったとしても増え始めました。たとえば、Glencoreは2017年までザンビアの鉱山2ヶ所の操業を停止する方針を発表し、Anglo-Americanも供給停止を明らかにしました。
銅鉱山の性質を背景に、市場均衡における供給面に関して言えば、特定のダイナミズムが存在します。供給を縮小した場合に設備を復旧する必要があるエネルギー産業や鉄鋼産業と比べて、銅鉱山は、採算が悪化したら容易かつ素早く操業を停止することができるのです。
また、銅は、国際的に売買可能なコモディティであるゆえに、均衡を見出すという点で効率的な市場であることを指摘したいのです。これは、輸送のための輸送費に比例して相対的に価格が高く、ほぼあらゆる国が多少なりとも銅の利権を有している事実ゆえに可能になるのです。たとえば、鉄鉱石とは異なり、銅は、ごく一握りの寡占的生産者に支配されておらず、地域の差や価格のプレミアムは相対的に低いのです。
ディレクショナル取引の量について、銅相場は今後、どちらの方向へ向かうと考えていますか? 銅は現在、2011年に付けたピークから半分の水準に落ち込んでいますが、市場では構造的な変化の兆候が見られますか?
YC: 市場では、2008年の調整がいまだ意識されているような気がしますし、さらに大きく下落してこれらの水準を再び試す展開に移行しそうです。下落トレンドをたどっていますが、大幅な価格の振れとボラティリティが相当大きいという特徴が挙げられます。
中国経済ならびに供給状況を巡る不透明感が残り、今後の需要のけん引役が明確でないことから、銅市場の方向性に関して、コンセンサスの見方はいまだ存在しません。先物市場にとって、こうした状況は実は好材料です。コスト効率の良い異なるポジションを構築するための豊富な流動性が存在することから、こうした状況は先物取引にとって妙味があります。足元の市場は、さらなる下落や将来の価格上昇を保護するために、現在の水準での価格確定を狙う生産者にとっても需要家にとっても魅力的です。
ハードコモディティの複雑性と為替には重要な相関関係がありますか、それらは変化しましたか? たとえば、豪ドルは、鉄鉱石と中国の代替として売買されるという話はよく知られています。
YZ: 豪ドルと中国の鉄鉱石需要との相関は、中国が世界最大の生産者であり、かつ唯一の最大消費国であるため、おそらく特殊なケースです。豪産業科学省がまとめた中国資源に関する四半期報告書のデータによると、豪州は、2015年第1四半期に中国の鉄鉱石輸入全体の64%を占めていました。チリでは今でも銅が最大の輸出原料ではあるものの、2国がかなり結びついている生産は集中がみられません。また、今年大幅に下落しているチリペソのレートとも相関性がみられます。
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