食糧価格の下落を背景に中国で政策変更は生じているか?

As Food Prices Fall A Change in Policy Coming For China

Nelson Low 2015年12月1日

要約
• 市場メカニズムにより、中国は一部の穀物について市場自由化のスピードアップを推進
• トウモロコシは、改革の目先の焦点となる見通し


中国は、特にコモディティに関して言えば、世界最大の買い手である場合が多く、独自の条件のもとに市場メカニズムの活用を実践している。これは、ことのほか農産物に関して該当し、政府はまた、13億人以上の人口に対して、価格を安定させて効率的に食糧を供給する責任との釣り合いを取る必要がある。

しかし、国内価格の支援制度を活用して国内生産を奨励し、今の中国政府の目玉といえる食糧安全保障政策が直面する課題は、急に大きくなっている。国際農産物価格が数年ぶりの安値を付け、割高な食糧の山が膨大に残されているからだ。

食糧備蓄

政府は現在、その結果として生じてしまったやや意図せぬ市場の歪みなど、この政策の後遺症に対峙している。このため、中国は少なくとも一部の穀物について、市場自由化に向けた動きのスピードアップを推進している。こうした展開は、国際価格に多大な影響をもたらす可能性があり、しかも海外の輸出会社にとって世界最大の食糧市場で新たな好機が生じていることから、かなり注視されている。

過去10年間において、中国は、農家に最低保証価格を提示することにより、国内の穀物の生産拡大で大きな成功を収めてきた。これは、小麦、米、トウモロコシの95%を国内生産するという食糧安全保障上の要望を達成することが目的だった。

だが、国際農産物価格が大幅安となり中国の国内価格を下回ったため、政府は、穀物から綿花や食用油に至るあらゆるもので蓄積した備蓄が大量かつ割高な状態で残されてしまった。2015年3月、各種穀物の備蓄予算は、3分の1ほど増えて247億ドルに達した。一部の報道では、トウモロコシ、小麦、米の備蓄が中国の年間消費量の50%を超えたことを示唆していた。

現行の政策は、備蓄で膨れ上がった倉庫、生産過剰、密輸、土地の劣化につながったため、今では圧力にさらされている。トウモロコシの場合は、上昇した価格が下流の食糧生産に次第に影響をもたらしているため、ことのほか問題をはらんでいる。

BMI Researchがまとめたデータによると、政府が支払うトウモロコシの保証価格は、1トン当たり平均2,250元と上昇している一方、現在の輸入価格は、税引後で1トン当たりちょうど1,600元である。さらに、トウモロコシは、家畜飼料に用いられるため、畜産業者は、家畜に餌を与えるために割高な国産資料を買う以外の選択肢がなく、そのため、食肉価格は押し上げられて、中国の消費者は、自分の食糧品により多くのお金を支払う羽目になっている。

これらの大幅な価格のゆがみにより、トウモロコシは、目先の農業改革の焦点となる見通しである。その領域において、トウモロコシ生産および価格政策の一部自由化を進めて、より市場主導の体制に向かって進むべきである。

では、どんなことが起こる可能性が高いか。米当局がコモディティの直接買い取りから市場価格と保証価格との差額の補填金支払に移行した20年前に、米国が自国の穀物市場で経験したのと同様の移行を経験する可能性があろう。政府が直接買い付けを廃止すれば、市場主導のメカニズムに向けてさらに一歩近づく。

世界のサプライチェーンに参入

アナリストは、政策変更は、秋のトウモロコシの収穫がほとんど完了している今行われる可能性が高いと考えており、その結果として直接買い付けよりも補助金の交付を選好して、価格設定を輸入価格に近付けることになるだろう。直接介入が少なくなり、生産者が現在、政府に直接売るよりも公開市場で販売していることから、こうした変化は、改革の道筋にとってポジティブな一歩である。また、コモディティが最終的にエンドユーザーにわたる前の「二度手間」がなくなり、管理者にとって非効率でコストのかかる傾向にある貯蔵の必要性を避けられることを意味する。

ただ、最も重要なことは、納税者と国家の負担になるばかりで、目立たぬ倉庫に積み上げられて、時間と作用により使用に適さなくなり放棄されるリスクのあった状況とは対照的に、毎シーズンの生産量が世界のサプライチェーンに入ってきて、実際のユーザーにより保管、出荷、使用されているということだ。

備蓄と輸入割当

遠く離れた所から、この備蓄積み上げ政策は、国内に影響を与えたばかりか、世界にも影響をもたらしている。綿花と牛乳はおそらく、それを示すのに最適な2つの事例だ。中国が2013年に備蓄用の綿花買い付けを終了したその時点で、備蓄は既に世界の在庫の約60%程度積み上がっていたため、世界各国の市場では中国が備蓄の積み上げを続ける意向はないと認識され、その後価格は急落した。

牛乳も似たような話である。多くの国は、中国の需要を満たそうと生産を大幅に拡大してきたが、中国が備蓄の積み上げを停止して国内生産を増やした結果、乳製品が供給過剰となり価格の急落が起きた。ニュージーランドから英国まで、酪農家は副次的な影響を受け、その一方で価格安を背景に、中国の農家が牛乳を流して捨てているとさえも報道されていた。複雑きわまる意味で、これらの2つの事例では、政府の介入は皮肉にも予想されうる最悪の金銭的結果を招き、備蓄は価格が高いときに積み上げられており、正反対になるべきだったのだ。とはいえ、中国に関して言えば、金銭的結果がプラスになることは、必ずしも最も重要な結末ではない。

中国政府が採用している別の政策手段は、国家発展改革委員会(NDRC)によって管理されている輸入割当の活用である。中国政府による世界貿易機関(WTO)への誓約に基づくと、年間輸入割当は小麦が960万トン、トウモロコシが720万トン、米が530万トン、綿花が89万4,000トンである。つまり、中国政府は、最近の交渉で輸入割当を引き上げてより高い上限を認めるよう圧力をかけられており、米国小麦連合会および全米小麦生産者協会の調査によると、中国は現時点で、小麦の国内生産の価値全体の約47%を下支えしており、WTOのもとに同意した8.5%をはるかに凌いでいる。

中国は、輸入割当を課している最初の国でも最後の国でもなく、自国市場の保護目的で輸入割当を課している国は先進国でも多い。輸入割当の活用は、壁を築いて海外市場から国内市場を守るのに役立ち、したがって、自国市場ではなく、オフショアの需給要因が対象である。これは、国内生産、価格、消費の管理を目的とした綿密なツールに見えるかもしれないが、大きな欠点があり、その最たるものが、競争圧力が弱まり生産性向上の意欲がそがれるという点である。これはスパイラル効果を通じて、不十分な生産、価格上昇、更なる輸入保護につながり、最終的に生産性が後退して一段と非効率性が高まることになる。

食糧安全保障政策= 社会政策

これらの政策手段はすべて、生産の自給自足の達成という崇高な目標を掲げて採用される。とはいえ、そのそれぞれは自らが撒いた一連の問題を伴う。中国のことをよく知らない海外のアナリストは、政策が古めかしいと言ってこれを一笑して、おそらく不要だと指摘するかもしれない。自由市場の支配に任せればいい、そう言う。

ただ、中国にとって、政策手段の組み合わせは、食糧安全保障政策も社会政策の要素に組み込まれているという現実を考慮する必要があり、地方農家にとっての適正な所得水準と雇用を保証するという要望が存在する。農業勘定は、GDP全体の約11%、雇用全体の40%を占めており、つまり農業は、中国経済にとって引き続き重要な寄与要因である。

中国は、農業セクターに対する構造改革の推進をあくまでも守ると思われる。ただし、改革は、性質上漸進的になるとみられ、それぞれの段階で以前のものを足場にして、進歩的で効率的で弾性のある枠組みを作るという最終的な狙いに向かっていくと思われる。中国は、構造改革がたどる道筋でしり込みせずに、投薬を拒まないことを望むしかない。ある意味で、改革は、伝統的な中国の医療とかなり良く似ており、その治療には長い期間がかかり、苦薬を飲むことになるが、結局、患者はすっかり完治したのがわかることになる。



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